国民年金だけでは不足するフリーランス・個人事業主の老後資金と年金対策
フリーランスや個人事業者は、加入必須の公的年金は国民年金だけです。老後は長く働いたり、上乗せ年金などで準備する必要があります。
■この記事で学べること
【1】フリーランス・個人事業主の老後の年金制度と国民年金
【2】国民年金に上乗せして年金を増やす方法
【3】自助努力の上乗せ年金は税金対策になる?
【4】お金を貯める・増やす老後対策
【5】フリーランス・個人時事業主の老後資金対策
フリーランス・個人事業主が知らないと損する老後の年金制度や上乗せする年金などの準備方法についてファイナンシャルプランナーが紹介します。
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この記事のもくじ
フリーランス・個人事業主の老後の年金制度と国民年金
フリーランスや個人事業主(厳密には細かい定義が違いますがここでは同じものとして併記します)が、老後資金や年金のことを考えるときに最初にすることが2つあります。
- フリーランス・個人事業主の公的年金制度を知ること
- 老後の生活の不足額を大まかにでも把握すること
2019年に金融庁の発表した報告書で老後で2,000万円、3,000万円必要などと騒ぎになりましたが、この金額は誰にでも当てはまるわけではありません。
2,000万円で足りる人もいれば足りない人もいます。
さらにこの試算は会社員などの厚生年金加入者の一つのモデルケースです。
フリーランスや個人事業主がそのまま鵜呑みにしてはいけません。
厚生年金がないから個人事業主はもっと必要かといえばそうかもしれませんが、できれば一度じっくり目を通してみてください。
老後の年金制度の基礎(フリーランス・個人事業主)と国民年金
年金制度は大きく分けると国が運営していて強制加入となる「公的年金」と自分(会社員なら勤務先企業もあり)が任意で上乗せで加入する「私的年金」があります。
年金制度は複雑ですが、この2つはわけて考えてください。
公的年金をベースに不足する分を私的年金やその他のもので補うというイメージです。
属性によって公的年金の加入者は、第1号被保険者・第2号被保険者・第3号被保険者はいずれかになります。
フリーランス・個人事業主は、第1号被保険者に該当します。日本に住んでいる20歳以上60歳未満の人は国民年金に加入必須です。
2024年度の掛金は月額16,980円です。
40年間満額の掛金を支払った場合、受け取る年金額は、2024年度は満額で816,000円です。
念のためですが年間の金額です。但し生存している限りずっと受け取ることができるのが公的年金の大きな特徴です。
会社員なら国民年金+厚生年金が公的年金です。
企業によってはさらに会社独自の企業年金制度があります。
会社員は給与天引きされるため、公的年金に加入しないという選択がないので、良くも悪くも貯まります。
フリーランスや個人事業のの場合は、やりくりが大変だから払わないなどのことをしていると老後資金の備えが疎かになりがちなので注意が必要です。
ちなみに結婚しており配偶者(夫や妻)があなたの扶養に入っている場合、第1号被保険者になります。この分も保険料を支払う必要があります。
会社員や公務員(第2号被保険者)に扶養されている専業主婦(主夫)は第3号被保険者ですが、フリーランスに扶養されている場合は扱いが違います。
会社員を辞めて起業した人などはこうしたことをまずはしっかり確認してください。
フリーランス・公人事業主が老後の不足額を把握するには?
難しく考える人がいますが簡単にお話すると、老後の生活の収入と支出の差×老後の年数が必要な老後資金です。
つまり老後に年間でどのくらいの不足が出るのかを計算、その金額に老後年数をかければあなた自身に必要な老後資金の金額がわかります。
65歳から100歳までなら35年間、95歳なら30年間という具合です。
国民年金の支給額は、満額で年81.6万円です。これに預貯金やその資産を取り崩すことなどを前提にして足りるかどうかみていきます。
実際にフリーランスや個人事業主の場合は定年がありません。働く期間を延ばせばこの赤字を縮小できるというわけです。
仕事柄、高齢で個人事業をしている人もみますが、元気なうちは働くというのがフリーランスや個人事業主では一般的でしょう。
また公的年金もそれを前提にしています。
国民年金などの支払いが厳しいときにすること
国民年金に上乗せして老後資金の備える方法を紹介する前に、国民年金の支払いが苦しいときにすることをお伝えしておきます。
フリーで仕事をしている人にとって大切なことなのでよく覚えておいてください。
公的年金の掛金が問答無用で給与天引きされる会社員と違って、個人事業をしている人は資金繰りなどの関係でどうしても支払えない、苦しいときがあるはずです。
やってはいけないことは、ほったらかしにして国民年金の支払いをしないことです。
一定の収入があれば強制徴収や差し押さえをされるので結局支払いはしなければなりません。
またただ支払いをするのをやめると、国民年金に未納の扱いとなる期間が発生します。
国民年金には免除や猶予制度があるので、支払いが苦しければこうした制度を必ず利用してください。
また公的年金というと年を取ったときの年金(老齢年金)だけを考えがちですが、他に障害年金や遺族年金もあります。
交通事故や病気などで要件を満たせば障害年金を受給することができます。
公的年金は年を取ってから受け取るものだけではないことも理解してください。
国民年金に上乗せして年金を増やす方法
ここからフリーランスや個人事業主が国民年金に上乗せする方法についてご紹介します。
ちなみに年を取ってから受け取る国民年金の正式名称は「老齢基礎年金」といいます。一応覚えておいてください。
付加年金
付加年金とは、フリーランスや個人事業主などの第1号被保険者の人が、掛金を付加することで将来受け取る年金額を増やすことができる制度です。
付加する掛金は月々400円で受け取る年金額は、200円×付加保険料納付した月数になります。
なお付加保険料400円は確定申告の際、社会保険料控除の対象として所得控除することができます。
仮に40年間(480月)をフルに加入すれば、200円×480月(40年=96,000円が受け取れます。12か月で割ると8,000円です。
大した金額ではないと思うかもしれませんが、これも生涯受け取ることができるのがポイントです。ただ毎月400円貯金しただけではここまで増やすことはできません。
取り扱いは市役所・区役所・町村役場の窓口です。
なお、次に紹介する「国民年金基金」に加入していると付加年金は併用することができません。
国民年金基金
国民年金基金は任意加入ではあるものの、法律(国民年金法)の規定に基づく公的な年金制度です。
最初にお話したように会社員など勤めの人には、国民年金だけでなく厚生年金、勤務先によっては企業年金まであります。
これらの人と年金額の差がでるのを防ぐために作られた制度です。
この差を埋めるという意味合いがあるため、掛金の上限は月々68,000円に設定されています。
この掛金の上限は、この後ででてくるiDeCo(個人型の確定拠出年金)の掛金と合算した上限額です。
なお、この掛金は社会保険料控除の対象として、確定申告の際所得控除することができます。
国民年金基金は、一口目は終身受取りできる年金ですが、15年の保証期間のあるA型と保証期間のないB型に分かれます。
二口目以降は、終身ではなく5年・10年・15年だけ受け取る確定年金となります。
iDeCo(個人型の確定拠出年金)
確定拠出年金は2001年10月から新たにはじまった私的年金制度の一つです。
個人型と企業型に分かれますが、フリーランスや個人事業主が加入できるのは個人型でその愛称をiDeCoといいます。
従来の年金制度を大きく違うのは、どのような運用をして年金資産を殖やすのか自分で決めて指示することです。
運用リスクを自分で負うわけです。
その代わりに運用で殖えた分は非課税です。年金受取りは年金分割か一時金で受け取るなど選択することができ、それぞれ控除があります。
掛金は国民年金基金と合算して月々68,000円が上限です。
この掛金は小規模企業共済等控除の対象としてその全額が所得控除されます。
自分で運用するリスクを負う分、税制上の優遇制度も設けられています。
また夫婦でiDeCoに加入している場合、それぞれの名義で資産は分別管理・保護されます。
なお、iDeCoに加入する場合には、自分で契約する金融機関を比較して決める必要があります。
面倒かもしれませんが、必ずしっかり比較して選んでください。どこも同じではありません。
後で変更はできますが、無駄な時間とお金が余計にかかるだけです。
民間の生命保険会社の個人年金保険
自分で公的年金の上乗せを作る場合、ここまで挙げた方法以外に一般の人が加入する比較的容易な方法に民間の生命保険会社が販売している「個人年金保険」があります。
現在は預貯金の金利がとても低いように、これらのお金を貯めるタイプの保険や年金も同様に予定利率と呼ばれるものはとても低いのです。
最近では民間の保険会社で加入するお金を貯めるタイプの保険は、外貨運用に移っており為替リスクがあります。
そのリスクが承知な人やお任せする分、手数料などがかかることを承知で契約するのは問題ありません。
同じリスクを取るならiDeCo(個人型の確定拠出年金)なども選択に入るでしょう。
小規模企業共済
ここまで挙げた公的年金に上乗せする他の年金制度以外に、フリーランスや個人事業主ならではの上乗せ制度もあります。
それが「小規模企業共済」です。零細・小規模企業の経営者や役員が廃業や退職時の生活資金などのための制度です。
掛金は全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象になりますが、それ以外に事業資金の借入れもできるのが大きな特徴です。
事業をしている人にとって借入もできるというのは大きな強みです。
ここまで上乗せの年金制度などを中心に紹介しましたが、特に他の年金制度についても国民年金と同じように中途解約をしないのが前提です。
将来の老後資金のための年金ですから、途中でほいほい解約できると貯まらないためです。
いくつかの制度を利用する際には、こうしたやめるときのルールもチェックしておいてください。
民間の生命保険会社で加入する個人年金保険は普通に解約できますが元本割れすることがあります。
自助努力の上乗せ年金はフリーランスの税金対策になる?
老後資金を自助努力で準備する上乗せの年金でカバーするということ以外にフリーランスや個人事業主の人が考えるのが税金対策、節税でしょう。
ここまで紹介した対策の解説の中で、多くは所得控除の対象になるということについてもお話しました。
上乗せするものの種類によって、社会保険料控除や小規模企業共済等掛金控除、個人年金保険料などに該当します。
これらはいずれも所得から差し引く所得控除と呼ばれるもので税金対策になります。
但し、もともと支払う税金以上に負担が軽減されるわけではありません。
具体的にお話すると、例えば住宅ローン控除などでほとんど所得税の負担を軽減できているなら、節税のためだけに上乗せ年金に加入しても効果が薄いこともありえます。
ちなみにふるさと納税などでも同様です。何のために上乗せの年金に加入するのか、節税も考えるなら効果はあるのかなども事前に検証してください。
年金の上乗せ以外にお金を貯める・増やす老後対策
単純に上乗せの年金制度について解説しましたが、これら以外にお金を貯める。殖やす方法や制度についてもみておきましょう。
国民年金の掛金の一括払い
国民年金の掛金も月払いにするよりも、一括払いにすると割引がききます(国民年金前納割引制度)。
現金払いで1年度分を支払うと年間4,270円、2年度分なら16,590円の割引になります(口座振替の場合。日本年金機構のHPより)。
小さな差ではありますが長く掛金を支払うものですから、コツコツ続けていくと大きな差になります。
国民年金の繰下げ受給
国民年金の受け取りは、原則として65歳からです。満額掛金を納めていれば、80万円強の年金を貰うことができます。
この年金額を増やす方法が繰り下げ受給です。年金を貰う時期を遅らせる代わりに年金額を増額させる方法です。
いまの制度では最長70歳と5年間まで繰り下げることができますが、年金額を42%増額、75歳で84%増額させることができます。
またこの増額は一生涯増額されたままです。
自営の人なら70歳まで働くという人も珍しくないでしょうから、こうした方法もあることを知っておくとともに選択肢として考えてみてください。
なお、強制的にそうなるのではなく(通常は年金受給は65歳から)、自分で選ぶことができるので誤解しないようにしてください。
自営業ならなるべく長く働いて年金額を増やすというのは有効な選択肢の一つです。
なお、この繰り下げ受給をさらに延ばすことも国は検討しています。あくまで繰り下げ受給は任意なので、選択の幅が広がることは悪いことではありません。
もちろん繰り下げ受給をする場合は、損益分岐点がいつになるかなどシミュレーションはして検討しましょう。
なお、この繰り下げ受給は「1ヶ月単位で増額」されていきます。年単位ではありません。
受給年齢が遅くなりますが、割増になるだけ通常の受取りの金額に追いつく期間が短くなります。増えた年金は生涯貰える点もプラスです。
新NISA
iDeCo(個人型の確定拠出年金)で自分で運用する年金を利用しようと考えるなら、新NISAという選択もあります。
iDeCoのように預貯金や保険商品はありませんので、投資信託での運用が前提です。
新NISAの投資信託は手数料の安いものなど、基準が決められています。
通常、投資で儲けがでた分には税金がかかりますが、新NISAは非課税です。
これは年金制度ではないので、解約に制限はありません。
運用のリスクがあるのは理解した上で、預けるお金に流動性を持たせたい(換金しやすい)ということであれば検討してみましょう。
またiDeCoや新NISAだけでなく、興味のある人はぜひ資産運用にもチャレンジしてください。
自分の仕事で稼ぐことが中心であることは当然ですが、お金を稼ぐ、殖やす知識や方法を持っていることはこれからの時代に大切なことです。
少額からでいいので少しずつ経験を積んでください。
フリーランス・個人事業主のその他の老後資金対策
フリーランスや個人事業主が中心に考えるべきその他の老後資金対策
自営の人はもともと国民年金を一つの軸に老後も可能な限り働いていくことが前提です。
その意味で資産寿命を延ばすには、健康寿命を延ばすことと職業寿命を延ばすことが欠かせません。
そもそも健康でないと仕事は続けられませんし、健康でも仕事が来なくなればやはり仕事はできません。
元気な個人事業の高齢者を見ていると、70歳はもちろん80歳を過ぎても仕事をしている人はいます。
健康の維持や家族の状況、仕事の維持など条件はありますが、こうしたことも具体的にイメージしてみてください。
法人化して厚生年金にも加入
個人事業でも使用人が一定数いる場合など条件を満たすと厚生年金に加入する必要があります。
しかし単純に事業を拡大していってフリーランスや個人事業主から法人成りする方法もあります。
法人税は所得税に比べて下がっている傾向になること、個人と法人は別であるなど実は税務上も色々幅が広がります。
本業が大きくなっていくことはいいことですから、単に老後ということではなく、事業をどうしていくかという観点からお金のことも考えてください。
まとめ
国民年金だけでは不足するフリーランス・個人事業主の老後資金と年金対策、についていかがでしたか。
老後にいくら不足して、いくら必要になるのかは個別に違います。
フリーランスや個人事業主の場合には、強制的に掛金を支払うということが少ないので自分で何かしなければなりません。
せっかく自分で始めた事業ですから、社会貢献しながら楽しく長く続けることを意識して、お金を貯めて殖やすことも別に考えてはじめてください。
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