健康保険の傷病手当金!~2022年1月より支給期間が通算化
病気やケガで会社を休業した場合、会社員などには健康保険の「傷病手当金」が支給されます。これが改正され、支給期間が通算化されます。
■この記事で学べること
【1】健康保険の傷病手当金とは?
【2】支給の条件(在職中・退職後)や支給期間・支給金額、改正
【3】傷病手当金とうつ、新型コロナ、出産手当金
【4】具体的名手続き
【5】傷病手当金と税金、確定申告
いざという時に役立つ傷病手当金について、改正の内容や支給条件、申請手続き、支給期間などこの5つのポイントについてみていきましょう。
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この記事のもくじ
健康保険(協会けんぽ、健康保険組合、共済組合)の傷病手当金とは?
健康保険の傷病手当金とは?
傷病手当金は病気やケガで休業中に被保険者(健康保険の対象者)とその家族の生活を保障するために設けられた制度です。
病気やケガのために会社を休んで、事業主から十分な報酬が受けられないなどの場合に健康保険から一定額が支給されます。
協会けんぽ、健康保険組合、共済組合といった健康保険からの支給になるので、国民健康保険の加入者は支給対象ではありません。
つまり会社員や公務員が該当する制度で、自営業者などは傷病手当金の対象外です。
傷病手当金の条件(在職中・退職後)・支給期間・支給金額、改正内容
傷病手当金の支給条件
傷病手当金の支給は、次の4つの条件をすべて満たしていなければなりません。
業務外の事由による病気やケガの療養のための休業
健康保険で診療を受けることができる範囲内の療養なら、保険給付の療養でなくても対象になります。自費での診療や療養でも大丈夫です。
但し業務中や通勤途中など労災の対象になるケースでは、傷病手当金の支給条件には該当しません。
療養中で仕事に就くことができない
病気やケガで仕事に従事できない状態をいいます。
連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
傷病手当金は病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間から、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。
連続した「待機3日間」が必要です。連続して2日休んだが、3日目に会社に行って仕事をしたというような場合は条件を満たしません。
但し土日祝日・有給などはその待機に含まれます。
休業した期間中に給与の支払いがない
傷病手当金は業務外の事由による病気やケガで休業中の生活保障の制度です。
そのため勤務先から給与が支払われている間は、傷病手当金は支給されません。
仮に給与の支払いがされても、傷病手当金の支給金額よりも少なければ差額が支給されます。
なお、傷病手当金の給付について在職しているときについては、加入した期間(被保険者期間)の規定はありません。
退職後については次の2つの条件を満たしているときには退職後も引き続き残りの期間の傷病手当金の給付を受けることが可能です(資格喪失後の継続給付)。
- その人(被保険者)が資格を喪失した日の前日(退職日)までに継続して1年以上の被保険者期間 がある(健康保険任意継続の被保険者期間を除く)。
- 資格喪失時にすでに傷病手当金を受けている、または受ける条件を満たしている。
傷病手当金の支給期間
傷病手当金の支給期間は、支給開始の日から最長1年6ヵ月となります。支給開始から1年6ヵ月を超えると傷病手当金は支給されません。
仮に仕事に就くことができない場合であっても同様です。
支給金額
ざっくりしたイメージだとお給料の2/3に相当する金額が傷病手当金として支給されます。具体的には次のようになります。
◆1日当たりの金額:支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額(※)÷30日×2/3
※支給開始日の以前の期間が12ヵ月に満たない場合、次のいずれか低い額を使用して計算するのが条件です。
- 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
- 標準報酬月額の平均額 30万円(支給開始日が2019年4月1日以降 *健保協会Q&Aより)
傷病手当金の申請方法
勤務先に報告・相談
傷病手当金は健康保険からの支給になりますから、勤務先に報告・相談してください。
治療や療養が長くなるようなら、傷病手当金は支給されないが有給で対応する、傷病手当金の手配を進めるなど選択肢は一つではありません。
事情をきちんと説明して事業主の担当とよく相談してください。
勤務先と治療先の病院に、傷病手当金の申請書への記入を依頼
勤務先に書類の手配、また医師に記入してもらう書類もありますからこちらの手配も進めてください。
申請書は健保組合のWEBサイトからのダウンロードできます。
自分で記入する欄、事業主が記入する欄、医師が記入する欄がそれぞれあります。
傷病手当金の改正による支給期間の通算化
2022年(令和4年)1月1日より、傷病手当金は改正により支給期間が通算化されています。
具体的には次のとおりです。
- 同一のケガや病気に関する傷病手当金の支給期間が、支給開始日から通算して1年6ヶ月に達する日まで対象
- 支給期間中に途中で就労などで支給されない期間がある場合、支給開始日から起算して1年6ヶ月を超えても繰り越して支給可能となる。
これまでは傷病手当金の「支給開始から」1年6ヶ月を支給期間としていたものが、「支給開始から通算して」1年6ヶ月と改正されたわけです。
医療技術も進んでおり、例えば癌などになっても通院治療を続けながら仕事をすることも珍しくなくなりました。
治療と仕事を両立するために柔軟な所得保障ができるように改正されたのです。
図にすると次のようなイメージです。
出典:厚生労働省
傷病手当金の申請書類・添付書類
傷病手当金の申請書類や添付書類、記入例は全国健康保険協会のサイトを参考にしてください。
傷病手当金はうつ病でも対象?
うつ病の場合
うつ病などの心の病で休職するケースも最近は増えてきます。実際にうつ病を含めた精神疾患の患者数は年々増加傾向です。
他の病気に比べて治療期間が長引いたり、再発することもあるのが特徴です。
傷病手当金の支給は、うつ病などの場合でも要件を満たせば支給の対象になります。
心の病の場合、傷病手当金などの手続きは非常の面倒に感じるかもしれません。
制度はきちんとありますから、家族や頼れる友人・知人、医師などに相談してください。
新型コロナウィルスの場合
新型コロナウィルスに感染した場合であってもここまでお話した傷病手当金の支給要件を満たしているなら対象となります。
例えば、
「療養のため労務に服することができない」
「被保険者が発熱などの自覚症状があるため自宅療養を行っており、療養のため労務に服することができない」
場合も支給対象になりうるとしています。
しかし本人が新型コロナウィルスで労務不能なのではなく、事業所にコロナが蔓延して休業しているような場合は対象外です。
厚生労働省の関連サイトをリンクしておきますので参考にしてください。
下のリンクは6の「健康保険法等における傷病手当金、被扶養者の扱い」をみてください。
傷病手当金を2回目以降受給するケース
傷病手当金って2回目も給付できる?
傷病手当金の支給条件などは分かったと思いますが、実務面では色々なことがあります。
例えば初回ではなく、2回目以降改めて傷病手当金の支給を受けることができるかなどです。
例えば同じ病気で再度休業する際には、初回の傷病手当金の起算日から1年6ヶ月を超えて支給されません。
しかし同病気であっても、一度治癒して相当な期間就業後に再発したときには、支給されるケースもあります。
事業主などに確認してください。
傷病手当金の支給日は初回と2回目以降で違う?
傷病手当金の支給日は、初回と2回目以降で少し変わります。
最初は色々提出する書類があるので一概に言えませんが、1か月から1か月半くらいはかかります。
同じ給付要件で2回目以降であれば、半月くらいを目安に支給されるようです。
退職後の傷病手当金の条件と申請、手続き
勤務先を退職してしまうと、傷病手当金の申請ができないものと考えたり、面倒に思うこともあるでしょう。
退職後であっても、所定の条件を満たしている場合には傷病手当金の支給を受けることが可能です。具体的な条件は以下の2つです。
- 資格喪失をした日の前日(退職日)までに継続して1年以上の被保険者期間がある。但し健康保険任意継続の被保険者期間は除きます。
- 資格喪失の時に傷病手当金をすでに受けているか、または受ける条件を満たしている。
また退職する前は、休職から復職を経て改めて休職したときでも、傷病手当金が支給されます。
しかし一度退職すると、図にあるように仕事ができる状態になればその後再び業務の不能状態になっても傷病手当金は支給されません。
在職中と退職後ではこうした取扱いが異なりますので注意してください。
傷病手当金と出産手当金について
2016年3月までは、出産手当金の支給期間中については傷病手当金は支給されませんでした。
2016年4月以降、傷病手当金からの支給金額が出産手当金の支給金額より多ければ差額が支給されます。
原則として傷病手当金と出産手当金の両方を受給できる期間は出産手当金が支給されます。
但し、傷病手当金と出産手当金は支給日額が異なることがあります。
上記のように出産手当金の額が傷病手当金の額よりも少ないケースでは出産手当金との差額が支給されます(傷病手当金の請求が必要)。
傷病手当金と税金、確定申告はどうなる?
病気やケガの療養中に健康保険(協会けんぽ、健康保険組合、共済組合)から傷病手当金の支給を受けた場合、税務上の取扱いは非課税所得となります。
所得税は課税されませんので、確定申告の手続きは不要です。
まとめ
日本の医療制度には今回の傷病手当金や高額療養費など医療や生活の保障をする制度があります。
ここで不足する部分があれば民間の生命保険や医療保険、就業不能保険などでカバーすることを考えてみましょう。
知っている人には当たり前のことですが、知らない人にとっては大きなマイナスになりかねません。
病気やケガで具体が悪いときに冷静にじっくり考えるという余裕はなかなかありません。
普段からこうした制度があることを何となくでも頭に入れておきましょう。
会社員や公務員の場合には、こうした保障がベースになります。こうした制度を知って必要な保障のプランを組み立ててください。
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